宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」

高校生の頃からずっと宮部みゆきが好きだ。
彼女のクセの無い読みやすい文章、表現力、人間観察の鋭さとその眼差しの優しさ、登場人物の心の美しさ。
こんなに安心して読めるミステリを書ける人はそう居ない。
まだ高校生だった私が没入して泳ぎ回っても危険の無い、それでいて世の中には危険なこともあるのだ、ふとした事で人は過つのだと諭してくれた世界。
きっと私はいつになっても宮部みゆきの作品が好きだろう。

パーフェクト・ブルー』は、宮部みゆきの初の長編小説である。
若干ラストに不自然さがあるなど後の作品群に比較すると評価はやや劣るものの、標準的なミステリとしては高い水準にあると思う。
何より私の大好きな宮部節が遺憾なく発揮されていて、
彼女はデビューのそのときから「宮部みゆき」だったのだなあと感じさせられる。


パーフェクト・ブルー (宮部みゆきアーリーコレクション)

パーフェクト・ブルー (宮部みゆきアーリーコレクション)


物語は野球部員の焼死というショッキングな幕開けで始まる。
家出した甲子園のエースの弟、彼を捜す探偵。
エース一家のいびつな関係性やかつてのチームメイトの病死、製薬会社の黒い動きなど複数のストーリーが平行して進むが、
やがてそれらは交錯し、物語の最後に読者は意外な告白へと導かれる。

テーマや事件それ自体は悲惨であるが、元警察犬の一人称で進んでいき生々しい描写が避けられているため、読者にはそれほどストレスがかからない。
また事件の解決に動く探偵役である少年の感受性のまっすぐさ・まっとうさは瑞々しく好ましい。
それでいてテーマが浅くなってしまわないのは、ひとえに事件を取り巻く人間の心の動きを丁寧に描く宮部みゆきの観察力・表現力の賜物である。